訪問介護から見た高齢者事故

1.高齢者運転との関係

訪問介護のうち、高齢者の運転との関係で問題になるのは、通院の送迎です。事情は以下のとおりです。

(1)高齢者は通院の頻度が多くなるが心身の衰えとともに通院そのものが困難になる。

(2)往診の体制はあるものの、諸々の検査、緊急時などは、高齢者は直接かかりつけの医療機関へ行く必要がある。

(3)その時の移動手段が問題となる。付き添いの家族が車で送れる等の場合は良いが、昨今、子供等の家族が近くに居ることは少なく、自ら種々交通手段を使って通院する必要がある。

(4)多くの人は一般のタクシーを呼んで通院する。しかしながら一般のタクシーは乗降の介助や車椅子の人の乗降にはあまり協力的でない。万一転倒等の事故があった時のリスクがあるからと思う。しかし他に手段がなく一般タクシーを利用する結果、高齢者の通院で一番費用のかかるのは医療費の自己負担額ではなく交通費である。一回の医療費は数百円、交通費は数千円という実態である。

(5)そこでマイカーでの通院が選択肢となる。男性より女性の平均寿命が長いこと、女性が歳下の夫婦が多いこと等の事情から第一のケースは奥様が運転してご主人を通院送迎する。勿論逆のケースもあるが、ともかくイカーでの通院である。

(6)高齢化し、体調不良のご主人自ら運転するケースも多く見られる。通院のお手伝いに介護保険を利用していながら、自らスーパーへ買い物のために運転していたご利用者、また認知症にもかかわらず、自ら運転してあちこち周りようやく家にたどりついたご利用者は現実にいらっしゃった。(自動車徘徊)

(7)薬の副作用で脚の感覚がなくても運転しているご利用者もいらっしゃった。結局リスクの感覚より、そこに車があるから車を利用するのである。

 

 

2.免許証返納との関係

(1)現在、免許証は自主返納だが現行の制度でも高齢者の免許更新には一定の講習を受けるなどの対策はある。さらに案としては、一定年齢になったら返納義務を課すとかも考えられる。しかし、車の運転については個人差が大きい。

(2)地方では、高齢者にとって車がなかったら生活出来ないということが言われる。だから簡単に返納を義務化できないという考えもある。自分も過去そういう考えであった。

(3)しかしながら、一番のポイントは車に関心を持ち継続的に運転してきた人生か、そうでないかによると思う。

(4)ペーパードライバーが歳を取り歩くのが不自由なになったから、さあ車だと運転を始めたら先ず良い結果は出ない。

(5)一方、移動手段の乏しい田舎で何十年も車を使ってきた人達は、高齢になってもそれほど心配はないと思われる。

(6)都会でも、毎週車を運転してゴルフに行くとか、車を仕事に使っている人は高齢になっても安全な運転ができる。

(7)しかし、都会のサラリーマンの多くは、子供が小さいうちは車であちこち出かけるが、定年近くになるとほとんど運転はしない。自分もそうであり、実際、50歳過ぎに自損の物損事故を起こした。

(8)そういう人が高齢化して通院のために、ただ免許証があるというだけで車を使うと危険な事態になる。

(9)もう一つは、車の性能とか操作性が変わって来ていることである。あらゆる部分が電子化され、操作性は良くなっているはずではあるが、高齢者にとっては昔ながらの感覚が抜けていない。高齢者は新しい技術を習得する意欲も能力も無くなっている。

(10)ペダルは3つあって、一番左はクラッチなどという時代に免許を取った人間にとってオートマチックに違和感を感じる人間も過去いたと思う。

(11)アクセルとブレーキの踏み間違えということが良く言われるが、何故そんなことが起こるのか不思議に思っていたが、右足でアクセル、左足でブレーキを踏むという認識の人もいた。免許を取得した時、オートマチックは無かったようだ。

(12)もう一つ、高齢者は車を買い替えたらダメである。昔乗っていた車をそのまま乗る分にはまだリスクは少ない。高齢者は金があるからと高級なハイテクの車に乗り換えると、新しい機械に慣れない人は、操作が出来ない。

(13)認知症になると、慣れた家電やガスなどの機械操作が出来なくなる。慣れた機械でもそうだから、新しく導入した最新技術を駆使した新車は先ず操作不能と思った方が良い。スマホができないのと同じである。

(14)もう一つには、アクセルとブレーキのペダルの間隔が車によって微妙に違うことである。間隔が広い車から狭い車に乗り換えると、足の大きい人間は、ブレーキと一緒にアクセルも踏んでいたりする。アクセルの方の力が大きければ当然暴走となる。ハンドブレーキをかけたままでも気づかず普通に走行できるのと同じ理屈だ。

 

3.対策への提言

(1)高齢者の免許更新にあたっては、一律年齢とか、認知機能検査とかではなく、過去の実際の継続的な運転歴、事故歴、違反暦、所持する車両の傷の状況、病歴を書類でチェックする。

傷の多い車に乗っている人は、感覚の鈍化によりしばしばあちこちにぶつけていると思って間違いない。

(2)書類でパスした人間だけ、実地の走行テストをする。

(3)走行テストは基本的な安全確認ができるかのテストである。筆者が第2種免許を取得したのは55歳であったが、試験の内容は、ダッシュボードに置いたコップの水がこぼれないような運転をする、という1条件であった。あとは法令遵守と安全確認。何も難しいことではない。

(4)高齢者への新車売込みの制限は必要である。高齢者は新しい物への適応は難しいということは上記のとおりであり、販売者も認識すべきである。

(5)自動車メーカーは、アクセルペダル、ブレーキペダル、チェンジレバー等、走行に不可欠な装置の大きさ、配置の標準化に取り組むべきである。

 

 

(6)介護の一環としての移動手段を充実させるべきである。いわゆる介護タクシーというのがあり、当方も同様のサービスを提供しているが、担い手が極めて少ない。市町村あたり数社、数人である。ない市町村もある。

(6)理由は、介護の資格と二種免許あるいは一種免許の場合の講習という障壁である。当事業所にも過去数人のドライバーがいたが、その後、講習費や資格取得費の関係から人材が育たない。人が少ないから担い手は忙しくなり、違反覚悟の危険運転になる。だから、自分以外は止めさせた。

(7)一方でここ数年、通院送迎への需要増は著しい。そこで、介護資格取得、ドライバー講習の費用等の助成の充実が不可欠である。道路運送法78により、白ナンバー、一種免許でも有償の輸送ができる道が開かれているのだから、制度を活かすべきと考える。

(8)介護も実は通院から始まっている、ということである。

 

4.最後に

当方、サラリーマン生活をしていた50歳過ぎに親の介護の関係で介護離職、その後、介護と仕事の一本化による生活の効率化のため、介護を仕事として現在に至っていますが、偶然にも30歳半ばに、駅までの原付バイク通勤の途上、80歳代の高齢者運転の車が突然バックで飛び出してきて衝突、救急搬送されました。当時は分別のある高齢者が事故を起こすことなど考えもしなかったのですが、そのドライバーは丁度通院するところで、あまりにも心身が衰えていたので示談交渉もできず唖然とした経験から、問題意識を持ち続けていた次第です。

当方の提言が悲惨な事故の防止に少しでも役立てばと思い筆をとりました。

以上宜しくお願いいたします。