訪問介護と調理

調理は生活援助の一環として位置付けられている。生活援助は同居のご家族がいる場合は、介護保険の対象にならない。だいたいが独居のご利用者である。

調理というのは家庭の主婦の仕事としては一番生産的かつ創造的仕事であるが、料理と調理とは異なる。料理は嗜好的、独創的イメージがあり、調理は生きていくための所謂食事である、と考えている。どちらも楽しみであることには変わりないが。

介護でいう調理は文字通り、日常の食事を作ることになる。凝ったフランス料理など全く要求されない。男性でも単身赴任等の経験から簡単な調理くらいはできる人も多い。一方定年退職して料理教室に通う人もいる。

私も介護の仕事を始める前はキッチンにも立ったことなかった人間だが介護で調理は避けて通れないスキルの一つである。

覚えるコツは、ご利用者に習う事である。尤もご自分では出来ない身体状況だが他人には指示、説明できるご利用者の場合である。介護を始めて3年目くらいの時、自分と歳の変わらない独身男性の支援をすることになった。彼は大手メーカーの元技術者で仕事はもとより単身生活でのノウハウを並以上に持ち合わせていた。ただ急遽ご自分では作業が出来ない難病になってしまった。初期の頃は言葉も普通で、どの材料をどのように切って、何を煮て、何を炒めるかなど細かに教えてくれた。聞いた内容はメモしておき次からは聞かなくてもできるようにした。

要するに、その人に合った食事、好みの食事を作るのであればその人に聞くのが一番である。言われたように作業すれば良いだけである。

調理は、肉じゃがだのハンバーグだのメニューから入りがちだが、そうではなく、炊く、焼く、煮る、炒める、蒸す、茹でる等の基本を食材別にやってみて、熱の通り方を経験すれば一応の食事は出来る。あとは調味料を使って適度な味付けを行う。

それでも今の訪問介護の調理はそこまでも出来ない時間制限がかかってしまった。話はそれるが、例えば要支援の人の生活援助は10年前は90分であったが今は45分である。そうなると調理どころか冷凍食品を電子レンジにかけるだけというのもやむを得ない。 もう一つ、高齢者は一般にあまり食べない。介護状態になる前の段階で食はシンプルになってくるものだ。だからその延長上での調理のサービスもシンプルなのが良い。新任の主婦のパートのヘルパーなどが入ってくると、自分は料理は得意でないので、とかいう人がいる。確かに掃除をしてもらうと完璧だが調理の方は、あれっと思う人もいる。主婦と言っても家事の好き嫌いの分野やスキルはかなり差がある。でも介護における調理はハイレベルは要求されない。 あるご利用者宅へ調理というか料理好きのヘルパーが訪問し、得意の料理を提供した。しかし高齢の男性ご利用者は全く口にしなかった。そのご利用者は昔からお酒好きで食べ物はつまみ程度。現在でもパンに目玉焼き、味噌汁程度で十分な人だった。 またご利用者の健康状態や体質も大いに関係する。一般に高血圧を警戒して塩分控えめと言われるがそれは勿論正しいが、一方で甘い菓子パン、甘い飲み物ばかり口にする人もいる。高齢者は甘い物を好む傾向がある。これは私見だがある種の体調不良のストレス解消につながっているのではないかと思う。ヘルパーが糖尿病を心配して甘い物はやめた方が良いですよ、と言ってみたところでご本人血液検査で糖尿病の兆候全く無しであればそれはそれで良いのである。 鮭の切り身一つ、おかゆ、味噌汁、ほうれん草のおひたし、この程度で十分。それより、高齢者は規則的な時間、質、量を守るべきと思う。以前自分は犬を二匹飼っていたがどちらも長寿を全うした。理由を考えていたら、毎日同じ物と量、同じ時間、散歩。管理されていたからこそで、犬と人間を同じにしたら失礼だが、結局は生物の体は消耗品の機械と同じ。大事に使うしかない。