訪問介護における同行研修

介護業界は、資格社会ということは以前書いたが、もう一つ、研修社会である。従業者の研修が重視される。人様の身を預かるわけだから誤りのないよう業務遂行できるよう人材をきちんと教育する必要がある。


およそどんな仕事でもそうだが、始める前は誰でも素人、経験を積んでプロになる。その経験を積むにあたり教科書どおりには事は進まないわけで実践的な教育如何が結果に大きく影響する。


研修には集合研修、個別の自習、経験者が一対一で教える同行研修がある。一番効果があるのが同行研修である。所謂OJTというものである。


介護においては、ご利用者ごと、全て状況が異なるので、同行して個別の対応をどのように行うかを実践で覚えてもらい、やってみてもらうのが一番。集合研修も行うが、画一的な知識の伝授は一定の資格を取るとき習得済の前提だから、あまり意味がない。個別のご利用者についての対応につき、集合で検討、研修することは当然ある。


同行研修は、先ず先輩がやるのを見ている。

メモをとったり、録音、また最近では個人情報に抵触しない範囲のビデオ等も可としている。人間の記憶力というのは不思議で、教えている間一生懸命メモしている人間が、いざ自分でやって出来るかというとそういうわけではない。ボケっとして聞いてなかったような人間が教えたとおりに出来たりする。


そういうわけで、次からは1人でやってもらい、完全にできるまで、何回も同行訪問、1人でケアしてもらい、完全になったところでそのご利用者はマスターということになる。


しかしながら、この同行研修、教わる側、教える側にそれぞれ留意点がある。


先ず教わる側は、上記のように、最初は見るているだけ、というか、当然メモとか取る前提で、ただ見ているだけというより先輩のやることをよく観察することである。中には先輩に気を利かせて、手伝ってくれる人がいる。しかし、手伝ってしまうと、1人でのやり方が身に付かないし、メモすることもできなくなる。ひたすら頭に入れる努力をすることだ。疑問点や質問点は退出後に訊くようにする。


次に教える側である。ご本人やご家族の前でケアの説明をするのは、やりにくい面もあるが、ポイントになる所をしつかり伝える。慣れてくると省略するような作業も、初心にかえって基本原則を教えることである。また時間内に終える必要があるので、時間配分を考え、動作は止めず、口で明確に伝えることである。


1回目の訪問後、教わる側は、十分復習しメモ、写真などを整理する。事業所には大抵ご利用者別のケア手順書があるから、よく読んでおく。ただし、事業所にある手順書は往々にしてメンテナンスが不十分なので注意する必要がある。自分なりの手順書を作ることである。


2回目の同行では、教わる側が1人でケアして教える側が見ていて、手順どおりにできればオーケー。ご利用者にもよるがなかなか上手くいかない場合も多い。そうなると何回でも同行するが、教わる側が私にはこのお宅は無理という場合もある。一番多い理由は、体重差により、移乗に不安がある場合である。梃子の原理とかボディメカニクスとか何とかいっても絶対的に力が足りない場合は物理的に不可能であり、ヘルパーが腰でも痛めたら大変である。


ところで教えられたヘルパーが一人でケアしている時、教える側はよほど危険な場合は手を出すが、ちょっと違うなと思ったら、穏やかにアドバイスすることである。ご利用者やご家族がいる前で「違う、違う!」などと大声を出してはいけない。完全にマナー違反である。


私がある事業所でヘルパーをしていた時、やはり同行で先輩の社員に連れて行ってもらった。実は以前に1回、別の先輩社員に連れられて訪問したので、習った手順どおりにやった。今度の同行の先輩社員は自分よりやや歳下と思われる女性。私がケアしている時ご家族も見ていたが、途中でいきなりその先輩社員が「そうじゃないでしょ!そんなことしたら◯◯さんが苦痛でしょ!」というような趣旨のことを大声で叫んだ。私は「えっ?」と声を出したが次の言葉が出ない。ご利用者もご家族もシーンとした。その後の展開は覚えてないが、後日そのお宅に1人で訪問するようになった後も、何か喉にひっかかるものを感じ、普通に声が出て表情が緩むまで時間を要した。


こういう教え方は失格である。どんな仕事の世界でもこの手の人はいるものだ。数ヶ月して何らかの理由でその先輩は転職して行った。