訪問介護 信じられない出来事

歩行困難で外出は車椅子を使用するご利用者。買い物代行、通院介助など私自らやっている。もう5、6年の付き合いになるだろうか。82歳、ご利用者としては標準のご年齢だが、昔、階段から転倒したのが原因なのか、左側頚椎に損傷が残り左手足が思うように動かない。


しかし、それ以外は健康で、よく話をするが、たまたま私と小学校、中学校が同じだということがわかった。それもこの地ではなく、数十キロ離れたごく限られたエリアでの話だから奇遇でありいわば大先輩だ。

その方がよくデイサービスの話をしてくれる。 男性にしては随分楽しんでいるようだ。彼いわく、そこに来ている人で3歳くらい年上のご利用者がやはり、同じエリアの出身とかで話が合うらしい。私の先輩のまた先輩になるわけで大学の先生をしていたとかで、私のご利用者とも気があっていたようで、彼は先輩に「一度、夜にでも一緒に食事を」と約束して、それが、昨日、11月15日だった。


3時 に駅ビルの中の二人とも知っている店に行く事になったということでご利用者もお金を下ろしたりと楽しみにしていた。そこで私は定時にビルの8階、その店の近くまで車椅子でお送りしその場を離れた。お迎えは5時である。


私はその後別の訪問先が何件か入っており、当然5時にそこへ迎えに行けば良いと思っていた。ところが、3時半くらいになってそのご利用者から「相手がちっとも来ない。迎えに来てくれないか。」と電話がきた。私は厭な予感がした。相手の人は、ひょっとしたら約束を完全に忘れている、または、約束を理解していたのか?


さりとて、私も直ぐにはそこへ行けない。5時までスケジュールがびっしりだ。また、その二人は事前に相手の連絡先を交換していなかったらしい。話によるとデイサービスではご利用者同士お互いの連絡先を交換してはいけないことになっているらしい。


そのご利用者は、その場で早速デイサービスへ連絡し相手が来ない事情を説明し、相手の連絡先を教えてほしいと頼んだ。しかし、デイサービス側は個人情報だから教えられないとの答えらしい。結局私のご利用者は8階のロビーで私が行くまで2時間車椅子のまま動けず待っていた。


私はなんとも言えなくそのご利用者が気の毒で仕方ない。そんなことがあるのか。私の年代なら考えられない話だ。そのご利用者は内心相当頭に血が上っていると思われるが、私が迎え行くと言葉は少ないが、「いろいろ勉強になった」と。 


来なかった人は、認知症でないと言っていたが、認知症にもいろいろ程度や表面だけではわからない記憶の曖昧さはある。何が勉強なったかと聞いてら、「自分がしっかり連絡先を聞いてなかったこと。」だと。あと、車椅子でロビーにいると誰かが押してくれない限り、1mmたりとも動けないということを当然ながら、改めて実感したと。


私の仕事がいかに重要か改めて評価してくれた。私は直ぐに迎えに行けなかった負い目もあり、帰りは思い切って二人でファミレスに入って言いたいことを言い合った。これでご利用者も気が晴れたようだ。それにしても高齢者同士の約束とはこういうものだろうか。昔の人は時間厳守のイメージが強いが、ある程度が過ぎると逆になっていくということをしみじみ感じた一日であった。