訪問介護中の交通事故

訪問介護は、あちこちのお宅を巡回訪問する仕事の形態だから、移動を伴い、移動手段は自転車、原付バイク、軽自動車などである。車は軽自動車より大きい車を使うと維持費の点で経費の負担が大きくなるし、狭い道、訪問先の狭い駐車場等には向かない。


私も軽自動車を送迎の営業車にもしており、車椅子車両といって車椅子ごと乗車できるものなので便利かつ維持費もからないので重宝している。

ただし、問題はこの手の車の入手である。新車を購入するにしても、特注になり通常の車両より1.5倍くらいの価格になる。そこで、高速道路や長距離道路を走るわけでないので、中古で十分と思った。中古といえども通常のメーカー系中古ディーラーとか街の中古車センターにあるものではない。


当時、ネットで調べると、これはという業者は全国ベースで数社しかないようだ。最初に購入した車は、ネットで見つけ、価格も手頃、使い勝手も良さそうなので隣接県のさらに隣の県まで電車で見に行った。田舎駅に降り立ちさらには徒歩で30分のところに展示場があった。皆、ネットで全国から購入するから、わざわざ見に来る人などいないのであろう。土地の安い辺鄙な場所を展示というか車両置き場にしていた。


現物を見てみると予想通り良い車であり、セールスマンも福祉車両に関する知識豊富で一発で契約となった。


納車までには諸手続きに日数がかかり、また、車自体を持って来てもらうと遠方ゆえ費用も莫大になる。そこで、後日もう一度電車で取りに来ることにした。


この車を3年くらい乗った頃、事故を起こしてしまった。


朝8時にご利用者宅を訪問する約束になっていたところ、事務所で居眠りをしてしまい、気づいたら8時10分だ。慌てて出ていつもは通らない近道をしたところ、住宅地の中の標識の無い、同幅員の交差点で左から来た車とまともに衝突した。幸い双方怪我は無かった。左優先なので先方過失4割当方過失6割で、この点は知識があったのであっさり納得した。

 

問題はこの後である。最終決着に半年もかかるとは思わなかった。


要は、当方は営業車であった。旅客運送事業の認可を得ている。その場合は、事故で車が使えなくなった間の休車損害が過失割合に応じて先方の保険から出るはずである。


もう一つは、先方普通車、当方軽自動車ということで、強度の面もあり、当方は全損になった。全損になった場合、買換えが必要になるのだが、この買換え費用が先方の保険から過失割合に応じて支払われるはずである。


このあたりの保険の事はいろいろ研究してあった。ところが、先方保険会社にその請求を行うと、そういう規定はないという。そこで、先方の契約約款とか交通判例、また保険会社や弁護士が使う赤本、青本と言われるものを調べ、ポイントを整理して交渉に備えた。交通事故の交渉は通常保険会社同士がやるものだが、自営で仕事していると何でも自分でやってみるという発想になってしまう。別に経費が抑えられるわけでもない場合でもだ。


この種の交渉は電話ではダメである。見えない相手と抽象的な議論をしても話が噛み合わないだけでなく、感情が先行してしまう。自然と声が大きくなり体力を消耗する。言った言わないが後から問題になる。


従って、相手保険会社へ書面でのやり取りを申し入れた。ファックスまたは郵送である。この間も自分は仕事で動き回っているという事情もある。


いろいろ論点、請求根拠等を整理した文書を

保険会社へ送り、文書での回答を求めた。


その中で当方は休車損害として逸失利益を入れた。これは通常車が稼働していた場合に一ヶ月に得ていた利益とは別に、休車によりご利用者がら離れ、別事業者と契約したことによる将来の損失である。これは無理かなと思ったが、民法、刑法の因果関係理論は若いころだいぶ研究したことがあったので、いろいろな説を並べて先方へ送った。


保険会社からしばらく返事が来なかった。

すると一ヶ月くらいしたら、ある弁護士事務所から書状が届いた。今後、保険会社に代わって交通事故の先方当事者の代理人として、交渉にあたる、という書面であった。


保険会社がやっかいな相手とみて、対応を弁護士へ頼んだようだ。


相手が弁護士に代わっても書面主義を貫き、

電話での話は一切しなかった。争点は3つ。

①休車損害を支払うこと。

②新車買換え費用を支払うこと。

③休車に伴なう逸失利益を支払うこと。

先方、事故当事者及び保険会社は支払い義務なしと言っている。


弁護士と書面を数回やりとりした結果、①②は支払うが③はノーとの事だった。

③は元々無理と思っていたので、受け入れた。


事故から半年が経過していた。この程度の物損で半年だから人身事故など起こしたらさぞかし大変な時間を要するだろうと交通事故の怖さ、煩雑さを改めて痛感した。